力戛とう天

むかしむかし、天と地は僅か三尺三寸三分しか離れていなかった。天と地がこんなに近いから頭をもたげるとすぐ天にぶつかった。畑を耕す時も鋤を振り上げるとすぐ天にぶつかった。水を汲む時天秤棒は横にしかできなかった,そうでないとまた天にぶつかってしまうから。つまり何をするにもとても不便だった。人々はこのためいつもうっとうしい思いをしていた。

 

丁度このころ力戛という名の若者がいた。黒々とした眉に大きな眼、堂々とした体躯、身の丈は九尺九寸九分あった。力は計り知れず九十九頭の牛が力を合わせても及ばないほどだった。力戛もまた他の人たちと同じように、ひがな頭を下げ腰を曲げて畑仕事をしていた。腰は張り肩は痛く、背中は天に擦れて皮がむけていた。彼は皆が苦しむさまを見て自らを奮い立たせるように言った。“ここはいっちょう天を少し押し上げて皆が天と地の間で苦しむことがないようにしてやろう。”

 

大きく息を吸い込むと大腿や腕はみるみる太く逞しくなり眼はゴムボールのように大きくなった。彼が一世一代の力をもって両手で天を支え、“えい!“と気合をかけると天は九万九千九百九十九丈押し上げられた。両足を渾身の力で踏ん張ったため地もまた九万九千九百九十九丈押し下げられた。

      

力戛は天が押し上げられたのはわかったが、手を緩めるとまた天が落っこちるのではと思った。あれこれ考え ”そうだ!“ と左手で天を支え、右手で自分の歯を一本一本と抜き釘の代わりに天をしっかりと打ち付けた。後にこれらの歯は天できらきら輝く星となり、歯を引き抜く時流れた血は天にかかる虹となった。彼の吐き出す息は風になり、流れ出た汗は雨となった。彼の発した咳は雷となり、瞬きは稲妻となった。彼の頭に巻いたタオルは銀河となり、暑さのあまり脱ぎ捨てたシャツは天の雲となった。天はしっかり固定されたが残念なことに太陽と月がない。この世に光がなければ人はどうやって生きていけようか、作物はどうやって生長できるだろう。力戛は人々のために良いことをするには自分を犠牲にしなければと考えた。そこで彼は自分の右目を天に掛け太陽とし、左目をくり貫き月とした。力戛は九九八十一日忙しく働き全てをやり終えた時力を使い果たしてどーんという音とともに地上に倒れてしまった。彼が倒れたのは東方だった。彼の体があまりに重かったため東方の地面が九尺九寸九分沈んでしまった。それで後に河の水は皆水位の低い東方へ流れるようになった。

 

彼の死後腸は河の流れとなり、心臓は魚の獲れる池となり、口は井戸となった。髪の毛は樹林となり耳は花になり肉は田畑となり、手や足の指は鳥や獣となった。こうして天は高く、地は低くなり、天に太陽や月、星や雲が現れ、風雨雷、草花樹木,鳥獣虫魚が現れた。このようにしてこの世にいろんなものが現れ、人々は言葉にできぬほど喜び誰もが力戛が天を押し上げた功労を忘れることはなかった。

 

中国の神話

(とう はてへんに掌 支える の意)

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