環球荷鼎に関する疑問

呉恩元《蘭寶ャ史》1923年出版

 環球荷鼎:花芽の衣は水銀紅を帯び白い点々がある。花茎は三寸あまり。主副三弁は緊辺弁、小劉海舌。花色は黄緑(瑞々しい緑。。。


栄次郎《蘭華譜》1939年出版

 環球荷鼎:衣は水銀紅色を帯びた白砂状。花茎は三寸あまりで開花。三弁は緊辺で丸弁。小劉海型の舌。花色は清清しい緑色


沈渊如、沈萌春《蘭花》1984年出版

 寰球荷鼎:三弁短円、やや緊辺、色は瑞々しい緑色ですっきりしている、丸く短いカラス貝の殻状捧心、小劉海舌、花茎はやや長く、衣は水銀紅色、花茎の付け根は白色を呈する。葉は長く幅を引き丸く弓形を呈する。


呉応祥《中国蘭花》1991年出版

 葉は長く幅を引き湾曲して垂れ弓形を呈す。花茎はやや長く10〜15CM、色:鞘および苞片水銀紅色をなす。萼片は短円、やや辺、色は瑞々しい緑;花弁は唇瓣は短円、小さなU字型の紅紫色の舌点がある


《紹興蘭文化》1993年出版

 環球荷鼎:主副三弁は円を結び、收根放角、やや緊辺が見られる。色は緑、紅、黄が混じった複色花。丸い殻捧心、小劉海舌。捧心の中ほどに放射状に紅紋が入る。衣は水紅色、花茎は高く、根っこはやや白色を呈す。葉は長く幅を引き直立、稀に捩じる。葉色は深緑、光沢に富み。。。。


李少球、胡松華、魯章《中国蘭花(品種 欣賞 栽培)》1995年出版

 環球荷鼎:葉姿は長く幅を引き湾曲し垂れる、花芽は淡い紅色、花茎はやや高く、10〜15CM。花は正真の荷弁型、唇瓣小劉海舌、二つの紫紅色の斑点がある。


劉清涌等《江浙蘭宦t1999年版

 環球荷鼎:新芽は紫緑色、葉形は斜立15〜28CM,幅1〜1.2CM。葉質は厚くがっちりとし、深緑色、新葉は光沢がある。葉面の溝は深く、鋸歯は細かい。刃先は膨らみを持ちスプーン形を呈する。衣は水銀紅色で透明感があり、紫色の筋が入る。花茎は10CM前後で淡い紫色。主副三弁は收根が蜜で、緊辺放角副弁はまっすぐ伸び一文字肩を呈す。花弁は短円で貝殻捧心、捧心内に放射線状に紅色の条紋が入る。舌は小劉海舌で、舌面に鮮やかなU字の紅紋がある。環球荷鼎は日本蘭界では琥珀色とされる。


姚毓平、徐碧玉《蘭花》2000出版

 環球荷鼎;葉姿は斜立、肉厚で中ほどが広幅、葉がやや内に巻き、先端は鈍く尖る。葉色は深緑。苞衣は水銀紅色、紫紅色の筋が入る。主副三弁は短円、緊辺、收根が密、肉厚で平肩、貝殻捧心、劉海舌。花色は緑の中に紫紅色を帯びる。


丁永康《中国蘭芸三百問》1999年版

 環球荷鼎:葉姿は斜立で露受け葉を交え、葉鞘は硬く葉を包み,葉先は短く鈍く尖る。葉幅は中ほどが幅広で1〜1.5CM。長さは18〜28CM色は濃緑で光沢があり、葉肉は厚く硬い。葉縁の鋸歯はとても細かく,葉縁は内側に巻き葉形は緑雲によく似る。葉脈は細かい。葉の質感は緑雲よりやや粗い。 花苞は水銀紅色、紫紅色の筋が入り、薄緑のよごれがある。主副三弁は短く広い。收根放角,緊辺で弁質はきわめて厚く、捧心は短円で貝殻,劉海舌で紅点はU字形を呈する。荷弁花は一般に大円舌であるが、環球荷鼎は劉海舌で、これもその特徴のひとつである。花茎はで高さ10CM前後、。花色は緑の中に紫紅を帯び、普通ややにごっている。

卜金震《中国蘭譜》2001年出版

 寰球荷鼎:この蘭は葉が長く広い中立性で、春蘭の荷弁の広葉中最も長く、広い弓形をした品種である。三弁は短円、やや緊辺、短円の貝殻捧心、小劉海舌。花弁は瑞々しい緑色、花茎の付け根にわずかに白色を呈し愛蘭家がこれをもって珍品と称する。


 以上が私が手元で調べ得た代表的な資料である。特にいえることは、“環荷”或いは“寰荷”は20世紀20年代に上虞大舌埠で採取されたことが明記されているので環球荷鼎と寰球荷鼎が別物であるという心配はないであろう。しかし思うに、次のような疑問点があることも否めない。


1.花の色について。

 環球荷鼎の花色は後に瑞々しい緑から琥珀色に変わっているようだ。呉応祥より前では、おのおのの本で”瑞々しい緑(すっきりしている)”と明記してあるが、《紹興蘭文化》の後,環球荷鼎の花色が変化している。数冊の本の表現は全く同じとはいえないがほぼ同じで、緑色の中に紫紅色を含むつまり琥珀色と形容している。これこそ現在我々が通常見かける実物の花の色や写真で見る色に他ならない。《中国蘭譜》に述べられているのは明らかに沈渊如《蘭花》から引用してあり、瑞々しい緑色と記してあるにもかかわらず、掲載してある写真は紛れもなく琥珀色である。


2、花茎について。

 環球荷鼎の花茎は人によってさまざまである。呉恩元小原栄次郎さらに以後のほとんどの著者が花茎の色には注意していない。沈渊如氏が初めてこの点に触れ、花茎の付け根はやや白色を呈しているとあるが、残念ながら付け根部分以外は触れていない。《紹興蘭文化》《中国蘭譜》ではこの説明を採用しているが、いかんせん花の色に相違がある。このことはこれらの本の者が多分、本当に花茎に注目したのではなく沈氏の説を誤用しているのであって信ずるに足りない。《江浙蘭宦tでは花茎は浅紫色と述べてあり、現在見られる琥珀色の環球荷鼎の花茎は大体合致している。しかし《中国蘭芸三百問》では”花茎は翠緑色としてあり、琥珀色の花が翠緑色の花茎についていることになる。同じ色でも人によって認識に違いがあるのか、それとも本当に二種類の色があるのか?はたまたいずれかが間違っているのか?見識が浅く私にはこの問題に答えられないので同好の方の意見を待とう。


3、外三弁について。

 環球荷鼎の主副三弁は後に收根放角と言われるようになった。外三弁が緊辺あるいはやや緊辺というのは全ての書籍で一致している。呉恩元が言う荷弁に似ているというのは荷弁ということではなく、《蘭花譜》に言う円弁に近い。沈氏の《蘭花》では三弁は短円形とあるが收根放角とは言っていない。《紹興蘭文化》から、環球荷鼎は“外三瓣結円,收根放角,微有緊辺”と言われるようになったが、《江浙蘭宦tでは放角とあるが、收根と述べていない。氏の《蘭花》では“花外三瓣短円、緊辺、收根細”とあるが放角とは述べていない丁永康氏は“外三瓣短円,收根放角”としている。このように環球荷鼎の外三弁の形状もまちまちである。


4、葉姿について。

 環球荷鼎の葉姿は後になって立ち葉となっている。呉恩元はこのことに触れていない。沈氏は幅をひき弧を描き弓形をなしていると述べている。呉氏は幅を引き、弧を描き垂れ弓形をなすとし、李少球らは《中国蘭花》で幅を引き湾垂していると述べているが、みな沈氏の説を参考にしていると思われる。《紹興蘭文化》に至って葉型が変わってくる。<葉幅を引き直立し、時に捩れる>。 《江浙蘭宦t、姚《蘭花》、丁永康氏に至ると斜立で統一してくる。《中国蘭譜》では両方の言い方を採用し、どちらとも明言していない。こうしてみると、環球荷鼎は初めは立ち葉ではなく、今日見られる環球荷鼎の葉型と違っていたのかもしれない。
 舌の形状については認識が一致しており、舌上の紅点と
苞衣の色について異なる点があるが、偶然の因子あるいは表現方法の違いによるといえるかもしれない。ここでは例を挙げないことにする。

 以上比較検討すれば、四つの主な相違点は90年代を境にして、以前の環球荷鼎の葉は 幅広で弓形をなす から 斜立 に変わり、花色は瑞々しい緑色からどういうわけか分からないが、紫紅色に変わり、最も重要な特徴として主副三弁は短円形から後に收根放角に変わる。つまり比較検討した結果次の疑問が生じる。呉恩元が述べている環球荷鼎は今日我々が目にし話題にする環球荷鼎なのだろうか?現在の環球荷鼎は以前のそれと違うのかもしれない。もし違うなら、今の環球荷鼎は以前のどんな荷弁花だったのだろう。


 ははは。同好の方々に謹んでこのことをお話しするしだいである。蘭を育てていると、芽が出て、苗が成長し、花を咲かせること全て楽しいことであるが、さらに大きな楽しみの一つは蘭に多くの謎があることである。


 先の緑環球荷鼎についての投稿に対して中国の一愛蘭家より次のような書き込みがあった。(花の色合いや葉の形状についての独特の表現は辞書に載っていないのでそのままか、実際に合うように訳したが間違いがあるかもしれない。)

最近の蘭

緑環球荷鼎

環球荷鼎

環球荷鼎の謎
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送